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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)4879号 判決

原告(反訴被告) 大光商店こと 本多武郎

右訴訟代理人弁護士 稲垣利雄

被告(反訴原告) 中道早司

右訴訟代理人弁護士 村林隆一

主文

被告は、原告に対し、金二二五、九五二円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

反訴原告(被告)の請求を棄却する。

本訴及び反訴の訴訟費用は、いずれも被告(反訴原告)の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行できる。

被告において金一〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右反執行を免かれることができる。

事実

≪省略≫

理由

(本訴請求について。)

一、昭和三三年九月初め頃、繊維加工品卸売業を営む原告と、同加工業を営む被告との間に、加工委託取引期間、数量、加工賃、及び余剰生地返還義務の点を除き、原告主張の通りの加工委託契約が成立したこと、原被告間に、原告主張の消費貸借が成立したことは、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一ないし第五号証に、証人山田秀市(一、二回)、本多新三、山下義彦の証言、ならびに、原被告各本人尋問の結果(以上の内証人山下、ならびに原被告各本人の供述中、それぞれ後記信用しない部分を除く。)を考え合わせると、本件委託契約においては、加工が順調にゆきさえすれば、相当長期間継続して原告が加工を委託する旨の話合がなされたが、委託期間や数量については特に定められなかつたこと、加工賃については、ズボンの寸法の大小により段階があり、一本につき金四五円ないし金七〇円の間で注文の都度定められることになつていたこと、委託生地によつて指定数量のズボンを作りなお生地の余剰が生じた場合、これを被告から原告に返還する旨の、明示又は黙示の合意がなされていないこと(但し、それだからと言つて、被告が右余剰生地をどのように処分してもよいと言えないことは、後述の通りである。)がそれぞれ認められ、右認定に反する証人山下義彦の証言、ならびに、原被告各本人尋問の結果の一部は、いずれも信用することができない。

二、被告が、原告請求原因第一項(1)及び(2)記載の生地を、同項記載のズボンに加工するため原告から交付を受けながら、これによつて製作したマンボズボン二四七本、及び、長ズボン二一二本をいずれも原告に納入せず、その頃これを他に売却処分したため、原告に対する納品義務の履行が不能となつたことは、被告において自白するところであるから、被告は、原告に対し、右不履行による損害を賠償する義務があることはいうまでもないところ、証人本多新三、及び、山下義彦の証言、ならびに、原告本人尋問の結果によると、当時原告の右ズボンの卸値が、別紙第一計算表(A)記載の通り、マンボズボン二四七本については金一〇八、〇六二円、長ズボンについては金一七二、二五〇円であることが認められ、(右認定に副わない証人中西睦治の証言、ならびに、被告本人尋問の結果は、信用できない。)、前掲乙第四及び第五号証、ならびに被告本人尋問の結果によると、その加工賃が、前者については金一一、一一五円(一本につき金四五円)、後者については金一四、八四〇円(一本につき金七〇円)であること、従つて、同表C表記載の通り、右卸価額から加工賃を控除した残額二五四、三五八円が、被告の前記不履行により原告が蒙つた損害であると認められ、右認定を覆えすに足る的確な証拠がないから、被告は、原告に対し、右損害額を支払う義務がある。

三、次に、原告主張の、被告が加工余剰生地を使用してマンボズボン五〇本を作り、これに原告の商標を付して第三者に不当に廉価で販売したことによる損害賠償債権の有無について考えてみるに、売価の点を除き、被告において右の通り第三者に販売したことは、被告の明かに争わないところであるからこれを自白したものとみなすべく、右売価が一本当り金二四〇円ないし金二六〇円(五〇本で金一二、〇〇〇円ないし金一三、〇〇〇円)であつたことは、被告本人尋問の結果によつて認められるところであつて、右価額が、前項において認定した原告の卸売価額(一本につき金四三七円五〇銭)に比して著しく廉価であることが明かである。

被告は、余剰生地をもつて作つた加工品を売却処分することは被告の自由になし得るところであると主張し、本件委託加工契約において余剰生地の処置について原被告間になんらの約束がなされていないことは前認定の通りであり、また、被告主張のような商慣習を認めるに足る証拠もないから、被告は、委託生地によつて原告からの指定数量の製品を作り、なお生地の余剰が生じた場合には、これを原告に返還するか、更にこれより製品を作つて原告に納入すべき義務があるというべく、右義務を履行することなく、余剰生地によつて作つた製品に委託主たる原告の商標を付した上、これを他に売却処分したときは、債務不履行となるは勿論不法行為ともなり、被告は、これによつて原告の蒙つた損害を賠償する義務があるといわねばならない。もつとも、証人山田秀市(一、二回)、及び本多新三の証言ならびに、原被告各本人尋問の結果を総合すると、通常加工委託者は指定加工品数量に相当する生地を加工業者に交付するものであつて、殆んど余剰生地ができないものであるが、たまたま些少の余剰生地ができた場合には、加工業者においてこれを製品にして自家使用に充てることが加工委託者からも黙認されている事実を認められるけれども、この事実をもつて前説示の理論を覆えすことができない。

そうすると、被告は、原告に対し、前示マンボズボン五〇本の不当廉売により、原告に与えた損害を賠償する義務があるといわねばならない。よつて原告主張の損害について判断する。

(1)、証人本多新三、及び、山下義彦の証言、ならびに、原告本人尋問の結果に、弁論の全趣旨を総合すると、原告は、同三三年一〇月頃、マンボズボン等の販売先たる訴外三好製作所及びキリンヤから、前示被告の不当販売によるマンボズボンが他店において安価で販売されていることについて抗議を受け、前者に対して金五三、四四〇円、後者に対して金二一、九六〇円の各値引をするのやむなきに至り、右値引額の損害を蒙つたことが認められ(右認定を覆えすに足る証拠がない。)、原告が右のような損害を蒙ることは、加工業者たる被告において前示ズボン売却の際当然予見し得べきであつたことは多言を要しないところであるから、被告はこれが賠償の義務がある。

(2)、原告において、前示マンボズボン五〇本の引渡を受けていれば、少くとも別紙第二計算表に記載の通り、金一九、三七五円の価値を取得し得べきことは、第二項説示の理由に照して多言を要しないところであり、被告は、原告に対し、右と同額の損害を賠償する義務があるこというまでもない。

四、ところで、成立に争いのない甲第一号証の一ないし一三、前掲乙第一ないし第三号証に、原告及び被告(後記信用しない部分を除く。)本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、原告が被告に対し、別紙第三計算表記載の通り金二〇八、一八〇円の未払加工賃債務を負担していることが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部、ならびに、これにより真正に成立したと認められる乙第九号証の二、前掲乙第八号証の各記載は、前掲書証ならびに原告本人尋問の結果に照して採用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠がない。

而して、原告が、同三五年一月二〇日の当審口頭弁論期日において、被告に対し、右債務と第二項において判示した損害賠償債権とを対当額において相殺したことは、本件記録により明かであるから、右未払加工賃債務はこれにより消滅したといわねばならない。

五、被告は、原告が同三三年末までは加工委託を継続して行うことを約しながら、これを履行しなかつたため、被告は損害を蒙つたと抗争するところ、被告主張のような約束がなされていなかつたことは、第一項において認定したところであるから、右抗弁は援用することができない。

六、そうすると、被告は原告に対し、第一項判示の貸金八五、〇〇〇円、第二項判示の損害賠償債権残額四六、一七七円、第三項判示の損害賠償債権計金九四、七七五円、以上合計金二二五、九五二円を支払う義務があるわけであるから、原告の本訴請求中、これが支払を求める部分を正当として認容し、その余の部分を失当として棄却する。

(反訴請求について)

本訴請求について判断したところにより、原告の被告に対して負担した未払加工賃債務が金二〇八、一八〇円であつたこと、右債務が原告のした相殺によつて消滅したこと、被告が原告に対し損害賠償債権を有しないことが、いずれも明かであるから、これら債権が存在することを前提とする被告の反訴請求は失当であつて棄却を免がれない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行及びその免脱宣言について同法第一九六条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

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